新しい生物種の発見はまだ始まったばかり

発見されていない種は、発見されている種よりはるかに多い

生物多様性とは、多様な生物が存在しているさま、またはその多様さの度合いのことです。
犬や猫などの私たちになじみの深い動物から細菌やプランクトンなどの微生物にいたるまでの種の多様さとその度合いのことを生物多様性といいます。地層に化石が多く見つかるようになる4億5000万年前の顕生代から生物多様性の時代がはじまり今日に至ります。

現在、世界中で発見されて正式な名称をつけられている生物の種はおよそ150万から180万です。正確な数字を出した人はいません。しかしながら実際に存在する生物の種類は算定の方法によって360万から1億、あるいはそれ以上と見積もられています。
つまり地球上で発見されている生物種は、実際に存在するであろう生物種のほんの一部だということです。

研究が進んでいる分野においてもまだ未発見種は多い

 

花を咲かせて種をつくる顕花植物は野外生物学者に研究対象として好まれてきましたが、その顕花植物でさえ、世界中で27万2000種が記載されているものの、実際の数は30万以上であろうと考えられています。また世界の植物の標準資料であるインデックス・キューエンシス(英国キュー植物園作成のデータベース)には毎年約2000の新種が追加されています。比較的調査ができているアメリカとカナダでさえ毎年60種が追加されており、専門家の中には生物の豊かなカリフォルニアの1州だけで、まだ発見されていない種や変種が300以上あるいう見解もあります。近年発見された植物の中には観賞用になるほど華やかなものもあるそうです。

生命を探究する試みはまだ、はじまったばかりです。にもかかわらず現在、それら生命の多くが発見される前に永久に失われてしまっています。人類の諸活動によって誰にも知られることなく絶滅してしまっているのです。

人類の活動が生物を異常な速さで絶滅させている

人類の活動が環境を圧迫している

いったいどれくらいの絶滅が起こっているかというと、研究者の見解がおおむね一致しているところによると、人類が環境に圧迫をかけ始める前と比較して1000倍から1万倍という破局的に高い率で起こっています。それは以下のような人類の活動による要因が複数からみあい、強め合って、連続的に個々の種を圧迫しています。

  • 生息地の破壊(森林伐採など)
  • 侵入種(人の移動による外来種の持込で生態系が崩れるなど)
  • 汚染(生活排水、工業排水などによる水質汚染、土壌汚染、大気汚染など)
  • 乱獲(食料など人が生活のために生物種を捕獲するなど)
  • 人口(人が増加すると上記の4つのあらゆる影響が大きくなる)

このままだと21世紀末には半数の種が絶滅

絶滅危機にある種のリストである国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにあがっている種は、全て絶滅する運命にあるか、これから100年以内に絶滅する見込みの種です。2000年のレッドリストによれば、世界の哺乳動物種の4分の1、鳥類種の8分の1が何らかのレベルの危機状態にあります。今日、保全のための努力をすべて現行レベルで凍結し、森林伐採などの環境破壊は同様のスピードで続けるという決定がされたとしたら、2030年には少なくとも5分の1の動植物が、そして21世紀末には半数がすでに絶滅しているか、まもなく絶滅という状態になると思われます。一方、もし自然界の生物多様性が豊かな地域を救うために徹底的な努力がなされたら、消滅する種の数は半分に減ると思われます。

生物多様性の重要性について

個々の生物種の価値は簡単に計れない

さて、生物多様性の重要性を考えるにあたり、絶滅の危機にある希少な種を保全することの価値はいったいどれほどあるのでしょうか。希少な種が絶滅することについてそれほど大きな問題であると捉えていない見方があることも事実です。希少種がひとつ絶滅しても、一国の繁栄に目に見える影響はおそらくありません。しかし生物多様性の重要性を支えている価値観とは、個々の種の価値を今知られている実際的な価値だけで決めるのは間違っているという見方です。

シロナガスクジラの価値は、その売買価格とはイコールではない

たとえば体長30メートル体重150トンの陸海史上最大の動物であるシロナガスクジラ(地上最大の動物はアフリカゾウ 体高3~4m 体重4.5~6.5トン)は1930年に漁獲高のピークとなり1970年代初期には個体数が数百頭にまで急減し、完全絶滅の危機に陥りました。 死んだシロナガスクジラの金銭的価値は単位重量あたりの鯨油と鯨肉の時価だけに基づいています。しかし、そのほかにもシロナガスクジラについて科学や医学や美学の分野での知識とともに育っていく価値がたくさんあり、それがどこまで大きくなるかは予想もできないのです。

どんな動物も植物も微生物もその将来の価値を完全に推測することはできません。それらが人間の活動のために犠牲になり絶滅に瀕しています。また、まだ発見すらされる前に絶滅してしまっている種もおそらく多く存在しているでしょう。

生物種の未知なる価値を発見するバイオプロスペクティング

わかりやすい例としてバイオプロスペクティングの事例があります。バイオプロスペクティングとは自然界の生物多様性の中から有用な資源を探し出すことを言います。1987年に植物学者のジョン・バーリーがボルネオ島北西部の湿林で植物の標本を採取しました。そして、その中にHIV阻害物質をみつけ、その後、他の科学者と微生物学者によって抗HIV物質を取り出すことに成功しました。この物質(カラノライド)は抗エイズ薬として市場販売の認可が検討されています。
バイオプロスペクティングはこの10年のうちに新薬を渇望する世界市場のなかで相当な産業に成長しています。また森林伐採が進む土地を、その所有者・政府から借りる(コンセッション)、もしくは買い取るなどして、地域の経済とも整合した環境保全の1つの一方法としても注目を浴びています。

生物多様性は生態系を安定的に保つ

上記のような生物種の個々の価値はもちろんのこと、生物多様性は、生態系を安定的に保つことにも大きな役割を果たしています。たとえば何らかの理由(ウィルスや天災)で昆虫のようなある1種が絶滅の危機に瀕したとします。もし生物多様性に乏しい場合、その昆虫を捕食していた生物までもが危機に瀕する可能性も出てきます。さらにその生物を捕食するまた別の生物が・・・と不均衡の連鎖が始まります。しかし、生物多様性が豊かである場合、その昆虫の代わりとなるものが捕食の対象となり生態系は安定的に保たれます。そうしてまたそのうちに絶滅の危機に瀕していた生物種は回復するかもしれません。 この生態系の均衡がくずれることでおこる弊害は人類にとっても脅威となるでしょう。それは私達の食料、水、資源すべてが、4億5000千万年という生命の歴史で培われた絶妙なバランスを持つ生態系の上に成り立っているからです。

生物多様性の保全に取り組むということ

“場所の意志”に耳を傾けること

生物多様性の保全について考えることは、地球環境問題とよばれるほぼ全ての問題の解決に深く関係します。それは、生物多様性の保全は生態系を保全することであり、生態系はその土地(場所)と密接に関わるからです。その土地(場所)と密接に関わるということは、その土地そのものである地球と関わるということです。つまり、生物多様性の保全に取り組むということは、それを支える“場所”である地球そのものの保全について取り組んでいくということなのです。

私たちは、生態系という“その場所の意志”のようなものにしっかりと耳を傾ける必要があります。そして、いかにして同じ地球上で他の生命たちと共存していくことができるのか、持続可能な発展していけるのかを考えていく必要があります。

Think globaly, Act localy. 地球規模で考え、行動は身近なところから! という有名な標語があります。

近年、全国各地域でも、自分たちのできる身近なところから環境保全に取り組む団体が多く出てきました。またLOHAS( Lifestyles of Health and Sustainability の頭文字をとった略語で、健康と環境、持続可能な社会生活を心がける生活スタイル)のように流行として起こり、今や生活の一部として溶け込んでいるようなムーブメントもあります。

生物多様性を考えるというと、遠い世界の途方もないことのように思えますが、私たち一人ひとりが身近に出来る“地球環境に良さそうなこと”の実践が即ち、生物多様性の保全につながっているのです。

日本では2002年3月に「新・生物多様性国家戦略」が策定され、国家的に生物多様性の保全に取り組んでいます。2005年11月にはラムサール条約の日本国内の登録湿地が20箇所追加され、湿地の保全(生物多様性と淡水の保全)を進める活動が注目されました。またそれにともない地域の環境保全に関する活動も年々活発化している傾向にあるようです。

上記文章は下記文献からの引用に拠っています。

ご興味もたれた方は一読をお勧めします。なお本編には上記文章のより詳細な個々の事例や生物多様性の保全、ひいては人間と自然の持続可能な社会のための提案について詳細に述べられています。

出典:「生命の未来」
エドワード・オズボーン・ウィルソン(著)山下篤子(訳)角川書店
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